2013/03/31

PiL のライヴとアイルランド流の楽しみ方

John Lydon, PIL, The Opera House
John Lydon, PIL, The Opera House, a photo by PJMixer on Flickr.

現代の社会生活、特に学校とか仕事の場において感情をあらわにすることは良くないこととされています。人前で派手に怒ったり、泣いたり、笑ったりは控えなくちゃならないことになっています。感情を抑えて人とつき合ってます。でもじゃあみんな一体どこで感情をあらわにしてるんでしょう。

感情というのはひとりだけじゃ生まれません。少なくとも自分じゃない別の存在を感じて初めて感情というものが生まれます。親しい間柄ならお互い怒って怒鳴り合ったり、一緒に泣いたり笑ったりもできます。お互いが信頼できる間柄じゃないとなかなかできません。さほど親しくない人を相手に怒鳴ったら、簡単にその関係が壊れてしまうからです。涙と鼻水をたらしておいおい泣く姿だって親しい人じゃないと見せられないし、本当に親しくないと一緒に心から笑って楽しむことなんてなかなかできません。

感情というのは人間が生きる上でとっても重要なものなんですが、会社や学校での生活では何だか「抑え込め」「我慢しろ」と言うばかりで「それはとっても大切なものなんだからちゃんと吐き出すべきものなんだよ」という人はあまりいません。

人が幸せかどうかをどうやって測るのかは難しい問題です。衣食住足りて、仕事もお金もあるのに幸せを感じられない人は世界中にごまんといます。ですがひとつ確実に言えるのは感情をあらわにできる、信頼できる誰かが身近にいるかどうかというのは幸せの大きな要素です。人間生きていれば誰にでもつらいことや悲しいことがあります。それがいかに不幸で苦しいことであろうと、そのとき誰かと一緒に心から泣いて悲しむことができるのであれば、それはとっても幸せなことです。

セックス・ピストルズの時代からそうですが、ジョン・ライドンの歌は不思議なかたちで人の感情にはたらきかけます。怒り、喜び、悲しみ、普通はそれぞれ別に分かれているはずの感情がごっちゃになって押し寄せてきます。たとえば PiL の代表曲「Death Disco」、この曲は癌で死を目前にした母親のことを歌った曲です。ジョンは本当に泣き叫ぶようにして歌います。ですが、ライヴでこの曲が始まるとなぜかそうした意味がすべてぶっ飛び観客はみな狂喜乱舞します。

ジョニー自身はこれを結婚式で泣いて、葬式で大笑いするアイルランド流の楽しみ方だと言っています。そう、みんなで悲しめるというのはとても楽しいことなんです。信じられない?だったらぜひ PiL のライヴへ行って実感してみるといいよ。

たとえばイスラエルの人々に「アッラー」と合唱させる、そんなこと普通常識的に考えてできることではありません。不可能です。ところが信じられないことに2010年、現実に彼はにそれをやってのけているんです。理屈ではなく、イスラエル人が一緒に歌わずにいられない感情を彼は引き出したのだと思います。

理屈ばかりじゃなく、みんなもっと感情、エモーションの力を信じた方がいいよ。

俺は動物の声を怖いとかうるさいとか思ったことはない。子どもの声も同じだ。子どもたちが遊んだりはしゃいだりしてる声を煩わしく感じたことは一度もない。不思議なことに子どもの声は PiL が表現してるものと同じだからさ。さらに不思議なことに PiL はなぜか子どもにすごくウケる、それも同じ理由なんだ。

心底誠実であることが素晴しい成果を上げたってことさ。俺は本当のことを率直に伝えること、そして俺を育ててくれた階級や文化、俺が信頼するもの、そして誠実さに対する愛を表現することに力を注いできたんだ。子どもは嘘つきが嫌いだからな。

子どもは大人の嘘をすぐに見抜く。まあ大人も子どもが嘘をついたらすぐにわかるけどな(笑)。だが子どもは嘘をついてるんじゃない、遊んでるだけだ。そうだろ?子どもは障壁を乗り越えるんだ。それが素晴しいんだ。実際俺の心にもそういう子どもっぽいものが残ってる。無知じゃないぜ。純粋なんだ。現実の世界がどうであろうと、惑わされたりしないんだ。

アルバムの中にエデンの園へ帰ろうって歌がある。宗教からいただいてきた言葉だが、友人や近所の人、親戚みんなが話しかけてくれる素晴しい場所を観念的に表現してる。俺が子どもの頃住んでいた場所は実際そんな感じのところだった。だが昔のことを懐しんでるだけじゃなく、今の社会に生きるみんなにもそうあり続けてほしいと願ってる。

PiL のギグは楽しいイベントなんだ。敵は誰もいない。みんなお互い友達になるために集まるんだ。子どもを連れて来るといい。PiL のギグなら安全だ。じいちゃんばあちゃんも連れて来てくれよ。きっとみんな気に入るぜ。

SmartShanghai Interview: John Lydon

PiL の曲をエモーショナルに楽しむというのは、たとえばこんな感じです。

(注) ジョニーは「子どもを連れて来るといい」と言ってるんですが、この4月の PiL 東京ライブの会場 SHIBUYA-AX は「未就学児(6歳未満)のご入場をお断りさせていただきます」だそうです。けしからんです。コンサートって花火大会なんかと同じ娯楽だよ。子どもの入場を断る花火大会なんてあり得ないでしょう。

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