2012/04/17

人はなぜ沈み行く船に魅かれるのか (Song To The Siren - ブライアン・フェリー)

Siren - Roxy Music  1975 by oddsock
Siren - Roxy Music 1975, a photo by oddsock on Flickr.

サイレン(The Siren)というのは、ギリシャ神話に出てくる岩礁に住む妖怪の名前です。上半身は女性で、下半身は魚の姿をしています。英語だとサイレンと発音するんですが、日本語ならセイレーンとかシレーヌと呼んだほうが雰囲気が出ます。セイレーンは美しい歌声で船を引き寄せ、沈めてしまうと言われています。

今年はタイタニック号沈没事故から100年ということで、イギリス各地で様々なイベントが開催されています。そのひとつが4月13日にベルファストで開催された MTV 主催のタイタニック・サウンズ・コンサートで、ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)も出演してセイレーンの歌を歌いました。

「Song To The Siren」という曲、オリジナルはティム・バックリー(Tim Buckley)で、1970年のアルバム「Starsailor」に収録されてる古い曲です。ブライアン・フェリーは2010年のアルバム「Olympia」でこの曲をカバーしています。

実はブライアン・フェリー、1975年にロキシー・ミュージック(Roxy Music)でその名も「サイレン(Siren)」というアルバムを作っているんですが、このアルバムに「Song To The Siren」は収録されていません。当時はこの歌の存在を知らず、ずっと後になってディス・モータル・コイル(This Mortal Coil)のカバー・バージョンを聴いてこの曲を知ったそうです

さて、ビデオはオーケストラをバックにセイレーンの歌を歌うブライアン・フェリーです。コンサートにはほかにも色々な人が出てたみたいなんですが、この人、この曲が完全に主役です。まるでこの歌のためだけに開かれたコンサートのようです。

ティム・バックリーのオリジナルはあくまでギリシャ神話を題材に取った、悲しいラヴソングなんですが、ブライアンが歌うと世界が一変します。沈みゆく自らの運命、その官能的な悦びに溢れています。また、嫌がるセイレーンにつきまとうストーカーの歌のようでもあります。

沈み行くタイタニック号の船内では、オーケストラが最後まで演奏を続けていたという話がありますが、その曲はこの「Song To The Siren」に違いありません。

船影ひとつない海原を、長いことただよっていた
きみがその瞳と指で歌い
きみのいる島へ
ぼくを引き寄せてくれることを願って

きみの歌声が聴こえた

へさきをこちらに向けて
ここまで辿り着いて
あなたをこの手に抱かせて
わたしはここよ
わたしはここよ
あなたを抱きしめたくて
待っているわ

きみがぼくを夢に見てくれることを
ぼくは望んでいたのだろうか
キツネのぼくを、きみが追いかける夢を
ぼくの無謀な船は
岩場で痛手を受け
もう傾きはじめている

きみの歌声が聴こえる

わたしに触れないで
わたしに触れないで
ここへ来てはいけない
もう悲しむのはいや

生まれたばかりの赤子のように
ぼくは途方にくれ、潮の流れに戸惑っていた
波の渦に足を踏み入れるべきなのか
横たわり、死を花嫁として迎えるべきなのか

ぼくが歌う番だ

ここへ来て
ここまで泳いで来て
きみをこの手に抱かせて
ぼくはここにいるよ
ぼくはここにいるよ
きみを抱きしめたくて
待っているよ

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