2012/01/30

大邸宅とバリケードが建ち並ぶ町に (Seattle - パブリック・イメージ・リミテッド)

2001年9月11日の夜、仕事から帰って家のテレビをつけると、もうもうと煙を吹き上げる高層ビルの様子が映っていました。なんだこりゃ?と思って見ていたら、その後すぐに飛行機のようなものが飛んできて、ビルにぶつかり爆発しました。ああ、これ前に見たやつだって思いました。PiL の「シアトル(Seattle)」のビデオで見たやつだって。

1986年春、しばらくライヴ活動から遠ざかっていたジョン・ライドン(John Lydon)は、ジョン・マッギーオ(John McGeoch)、アラン・ディアス(Allan Dias)、ルー・エドモンズ(Lu Edmonds)、ブルース・スミス(Bruce Smith)と共に、ヨーロッパと北米で本格的なツアーを開始しました。このメンバーで翌年作成されたのがアルバム「Happy?」で、「シアトル」はこのアルバムからのシングルです。

皮肉なことに「Album」のレコーディングを終えると、またバンドでやりたくなったんだ。なぜかって?そもそもひとりになったのは、ゴタゴタから逃れて、状況を見直したかったからなんだ。そうやって考えた結果、俺のバックグラウンドである、ライヴ・パフォーマーとしての自分に戻るべきだとわかった。ソロ・アーティストにはなりたくなかった。グループとして活動するのが好きなんだ。

普通はやらないんだが、「シアトル(Seattle)」だけはツアーの最中にレコーディングしたんだ。ツアー中に数日、時間を確保できた場所がシアトルだってわけさ。実によく考えられた話だろ?

(「Plastic Box」ライナーノーツ)

1980年代、アメリカの経済は低迷していました。その低迷生活が生んだ音楽がグランジなのですが、一方でマイクロソフトに代表されるグローバル企業を数多く生み出したのも、このシアトルという町で、当時既にその萌芽が始まっていました。

ジョン・ライドンがそんなことをはっきり意識していたとは思いませんが、何か大きな力が動き出している気配と、それに対する嫌悪感がこの歌を生み出したに違いありません。

キラキラ輝くようなジョン・マッギーオのギターが印象的なこの曲ですが、その背後をルー・エドモンズのノイジーなサズがしっかりサポートしている様子が、今聴くとはっきりわかるはずです。

この古い町の風景が気に入らない
上ったものは、いずれ地に落ちる
人気(ひとけ)のない競技場には、個性が置き忘れられる

俺の前から消えうせろ
一体これは何なんだ

射程距離の中に追い込まれて、あらゆる能力が品定めされる
代わり映えのしない新しい競技場で、思考も身体も縛り上げられる
連中が理解できないことは、当たり前のことでも無視される
まるで、何ごともなかったように無視される
そして、何ひとつ変わらない

一体これは何なんだ
一体これは何なんだ
一体これは何なんだ
俺の前から消えうせろ
俺の前から消えうせろ
俺の前から消えうせろ
起きろ、出ていけ、俺の前から消えうせろ

さあ、何か言ってみな

秘密の合図に訳知り顔
いい天気の日には帳簿をごまかす
この人生がもたらす悲惨な状況は
喜びとともに受け入れよう

この古い町の風景が気に入らない
上ったものは、いずれ地に落ちる
人気(ひとけ)のない競技場には、個性が置き忘れられる

一体これは何なんだ
一体これは何なんだ
一体これは何なんだ
俺の前から消えうせろ

大邸宅とバリケードが建ち並ぶ町に
脅威が確実に忍び寄る

大邸宅とバリケードが建ち並ぶ町に
脅威が確実に忍び寄る

2012/01/27

本当はこんな歌、歌いたくないんだ (The Worst Of Progress.... - Magazine)

Sisyphus by Amaury Henderick
Sisyphus, a photo by Amaury Henderick on Flickr.

芸能人とかアーティストという職業は、一発当たればウハウハで楽な生活ができるものと、今でも信じてる人がたくさんいます。芸能界というのは、派手に見せて人に夢を与える商売なので、その幻想を維持しなければならない事情もあるのですが、実際のとこ、ほとんどの人が地味な生活を送っています。

ハワード・ディヴォート(Howard Devoto)さんの場合、マガジン(Maggazine)解散後、会社に勤めて写真ライブラリ管理の仕事をしていたというのはよく知られた話ですが、実は2005年にもメンバーが集まってリハーサルをしていたそうです。会社勤めをしながらマガジンとしての活動を再開できないと、一旦は流れてしまったのですが、その後会社が倒産したためハワードさんは50代半ばで失業者となってしまいました。一方これが「幸いして」2009年の再結成ツアーが実現したわけです。(Pennyblackmusic Magazine : Interview)

アルバム「No Thyself」収録の「The Worst Of Progress....」は「わらの犬」という本に触発されてつくったそうです

中産階級(ブルジョア)は終身雇用、もしくは、生涯、働きつづけることができる制度を生活の基盤としている。それが、今や身を立てる仕事、職業が影をひそめる世の流れである。遠からず、職業の概念は中世の地位や身分と同様、黴の生えた遺物となるだろう。

ブルジョアはヨーロッパと日本にそこはかとなく以前の面影を残している。イギリスとアメリカでは、テーマパークの常設展示となった。中流の暮しはもはや資本主義では賄いきれない贅沢である。

進歩は怠惰を敵視する。人類を救う仕事は並大抵ではない。目標をひとつ達成しても、その先は山また山だから、どこまで行ってもきりがない。もちろん、重畳の山は蜃気楼にすぎないが、何よりも始末が悪いことに、これが永劫の幻影なのである。

古代人にとって、終わりのない労働は奴隷の烙印だった。シジフォスの労働は劫罰である。進歩のために労働に甘んじている現代人は奴隷と大差ない。

- 「わらの犬(Straw Dogs) 2002」ジョン・グレイ(John Gray)

現代の失業者は「うわああ、仕事がないよ、どうしよう」と日々あせりながらも、こうした本を読んでシニカルな思索にふけるのが王道だと思います。

一方、マガジンは昨年10月にアルバム発売、11月にイギリス国内9ヶ所でコンサートを行なった後は、BBC ラジオでスタジオ・ライヴを収録したのを最後にしばらく音沙汰がありません。今後の活動については、次のように語っています。

昼間の仕事はもうしてない。しばらく前にやめたんだ。でも音楽だけをフルタイムの仕事にしたいと思ってのことじゃないよ。あと、これは再結成に動き出した時点から、はっきりしていたことだけど、他のメンバーもそれぞれ自分のプロジェクトを抱えてるから、昔みたいにマガジンとしての活動だけで手一杯にしたくないはずなんだ。

これからのことは、どうなるかわからないな。今できることをやるしかないんだ。曲を作りこのアルバムをレコーディングするために、メンバーみんなの貴重な時間を費したから、どうなるか、やるだけやってみるつもりだよ。みんな経済的にラクじゃない。なにせぼくらはカルトバンドだからさ、続けていくのは容易じゃないんだ。一年、一年少しずつやってくしかない。もちろん続けたいとは思ってるよ。

(No Thyself: Magazine's Howard Devoto Interviewed)

ビデオはマンチェスターでのライヴの模様です。ハワードさんは「こんな歌、歌いたくない」なんて言ってますが、もちろん嘘にきまってます。顔を見ればわかります。

弱みを探って、あちこちうろついてるときだった
ずんぐりとした指をぜんぶ火傷してしまったのは
何より始末が悪いことに、あからさまに言って
聞いていたような価値のあるものは、何ひとつなかった

ぼくは自分自身の進歩に集中していた
人生の成功は電話次第
地図上の色はどうしていつもにじんでいるんだろう?
もしそれが本当なら、そうだな、きみがひとりでやったことじゃないな

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる

本当はこんな歌、歌いたくないんだ
それに、きみが笑うことぐらい恐ろしいものはない
宇宙の起源を探るスペクトログラフがどうのこうの
くだらない解釈でぼくの邪魔をしないでほしい

ぼくの予言を聞くがいい
人は暗闇をじっと見つめることなんかできない
そして、それが永遠に続くことはない
それから、ぼくらが月へ行くことも、決してない

それでも、ぼくらは起き上がる...

きみは、あの素晴しい日に手を伸ばす
遥か彼方の陸地にも手を伸ばす
でも、たった一日で、もう手を伸ばすものが何もなくなる

2012/01/26

寒い国から来た鏡獅子 (ザ・ライオンズ・ローア - ファースト・エイド・キット)

Untitled by Jen Yoshida
Untitled, a photo by Jen Yoshida on Flickr.

スウェーデンのおぼこ姉妹、ファースト・エイド・キット(First Aid Kit)の新しいアルバム「ザ・ライオンズ・ローア(The Lion's Roar)」が発売になりました。出足は好調で、iTunes のアルバムチャートを見ると、ノルウェーではいきなり1位、デンマーク、フィンランド、スウェーデンでもベスト10入りしています。日本でも、こないだのプロモーション来日の甲斐があって、雑誌などにも取り上げられ、徐々に注目されてきてるみたいです。2月8日にはめでたく国内盤も出ます。

この二人はねえ、やっぱライヴがいいのよ。向かって右がギターを持った妹のクララで、左がキーボードを前にした姉ちゃんのヨハンナ、あとは中央にサポートのドラムがいるだけのステージなんですが、ほかに何の仕掛けもない分、ただ「歌を歌うためにやって来ました」って感じがより間近に感じられて新鮮です。いや、YouTube とかでしかライヴ観たことないんですけど、そうなんです。

アルバムのタイトルになってる曲「The Lion's Roar」は2年くらい前から演奏されていて、ファンにはすっかりおなじみの曲なんですが、注目はヨハンナのキーボードです。一見テキトーに弾いてる風なんですけど、いやなかなか、少ない音数とやわらかい音色で、ここしかないでしょってとこを攻めてきます。

あと見どころはもちろん、二人並んで長い髪を振り乱してのヘッドバンギングです。

2月から4月にかけてのツアーは北欧から始まり、ヨーロッパ各地、イギリス、オーストラリア、北米など既に40ヶ所以上のライヴが予定されています。日本での予定は今のところありませんが、オラ、今年の紅白にこの曲、お勧めしたいんですけど。

白々とした朝が、誰もおぼえていないことを歌い、音を奏でる
説教とお祈り、教訓を与える立場の人々に
まんまと騙されたことに、目をつむりたい人たちのために
だけどそれは失敗に終わり
夜はおかしさのあまり噴き出してしまう

わたしが言ったとおりでしょう
あなたのまわりが変わってしまうかもしれないって
それでもまだ、何もかも命じようとする気?
どうあがいても、すべては刻々と変わっているのに

わたしは大ばか者だけど、あなたも同じよね
ライオンの吠える声
ライオンの吠える大きな声
あなたから逃れ、叫ばせる声
わたしは、どうすればいいのかわからなかった

そうね、あなたのことを
もう少し、理解できたらと思うこともある
本のあらすじみたいに
でも、わたしにできるのは
あなたのおどおどした笑顔から
あなたを取り巻いて吹く昔の風のように
次に起こることを予想するだけ

わたしは大ばか者だけど、あなたも同じよね
ライオンの吠える声
ライオンの吠える大きな声
あなたを求め、探させる声
わたしは、どうすればいいのかわからなかった

わたしだけのローズマリー・ヒルがいたらと、思うこともある
あの場所に腰かけ、素晴らしい湖を眺めて歌えたら
そしてときどき、あなたのために歌えたら
歌は山々を越え、海と星の彼方へ上り
もし望めば、あなたをわたしの元へ導いてくれるはず

ライオンの吠える声
ライオンの吠える大きな声
前にも聴いたことがある
子どもの夢想、ひとりぼっちで泣き叫ぶ、ライオンの声

2012/01/02

年頭所感 (Field Day for the Sundays - ワイアー)

United Shoe Machinery Employees' Field Day by Beverly Public Library, MA
United Shoe Machinery Employees' Field Day, a photo by Beverly Public Library, MA on Flickr.

2012年も早や2日目を終えようとしていますが、みなさん充実した日々をお過ごしでしょうか。

オラはテレビでラグビーを見て、ラックとモールの違いを発見したり、愛ちゃんと佳純ちゃんを見ながら、イランと日本の今後の外交関係について考えていました。

毎週日曜定例、みんなが人生を棒に振ってしまうような運動会に
ぼくはなりたい

ヨメさんが赤面するような、後味の悪いやつ
月曜の朝、アクアホワイトで磨いても消えないようなやつ

みんなが胸を張って言える、はっきりした日々の目標に
ぼくはなりたい

ぼくの巻頭ヌード写真みたいに、趣味の悪いやつ
腰のあたりにぼかしの入った、月曜の朝みたいにぐったりしたやつ

注目の投稿

便所と夫婦と世界が抱える問題 (Double Trouble - Public Image Ltd)

いったい何をごちゃごちゃ言ってんだよ。何だって?トイレがまたぶっこわれた?ああ、前は俺が直したよ。また配管屋を頼めって言ったろ。何度でも頼めって...。 なんということでしょう。PiLのニューアルバムWhat the World Needs Now...はトラブルの歌で幕...