2011/06/14

あんたが今まで見てきたものなんてまだ前哨戦に過ぎない (パブリック・イメー ジ - パブリック・イメージ・リミテッド)

PIL (Public Image Limited) - Primavera Sound 2011 - Jueves - 04 by scannerfm_flickr
PIL (Public Image Limited) - Primavera Sound 2011 - Jueves - 04, a photo by scannerfm_flickr on Flickr.

パブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Limited)という名前はイギリスの女流作家ミュリエル・スパーク(Muriel Spark)の小説「The Public Image」からもらったというのは有名な話です。若き日のジョン・ライドン(John Lydon)はこれを読み、非常に感銘を受けてバンド名にしたそうです。

残念ながらミュリエル・スパークの小説は日本ではそのほとんどが絶版になっており「The Public Image」に至っては一度も翻訳されていません。でもね、すごくおもしろいんですよ、ミュリエル・スパーク。かのブレイディみかこさんなんかはスパークを最強の女流作家と評しています。

「The Public Image」はどんな話かというと、有名な女性映画スターが自らのパブリック・イメージを保つため、夫婦関係が崩壊しているにもかかわらず家庭的な女性を演じ、さらに夫の自殺を世間から隠そうとして色々画策するのだが...という話です。スパークの小説はあらすじだけ書いても「何?それ、けっこうありきたりな話じゃん」みたいなのがほとんどです。でも違うんです。スパーク小説の魅力はその文体と話の展開の仕方にあるので、あらすじだけじゃ分からないんです。登場人物はみんな根性悪いんです。滑稽なんです。で、読者は読んでるうちに色々自分にも思い当たるフシが出てきて非常にいやーな気分になる、イギリス伝統の自虐系ユーモアに溢れています。

セックス・ピストルズ(Sex Pistols)は1978年の US ツアー直後に解散しました。正確にいうとその時点でまだ解散はしていなくて、マネージャーのマルコムや他のメンバーと折り合いが悪くなったジョン・ライドンがリオでのレコーディングを拒否したため、ホテルに無一文で置き去りにされたわけです。ジョン・ライドンが再出発するに当たってしなければならなかったのはまずお金を工面して新たなバンドを作ること、そして「セックス・ピストルズのジョニー・ロットン」という自分のパブリック・イメージと戦うことだったわけです。同年暮れ、ジョン・ライドンは新バンドのパブリック・イメージ・リミテッドを率いて音楽業界への復帰を果たします。そのデビュー曲が「パブリック・イメージ(Public Image)」でした。

PiL がツアーに出るための資金をバター会社以外の一体誰が出してくれたって言うんだ?俺は18年間ずっとレコード会社相手に交渉してきたが、連中のやったことといえば俺を借金漬けにしただけだ。セックス・ピストルズ同様、俺のもうひとつのバンド PiL は注目に値するバンドだ。復活してツアーをすべきなのに借金で身動きが取れなかった。レコード会社の連中は自分たちのすべき仕事をしていないのか、それとも巧妙なビジネスをしているだけなのか?どちらにしろレコード業界は腐り切っていて、何か良くしようとしてもぜんぶ徒労に終わる。流れに逆らわなければもっと楽に生きていけるのかもしれないが、そんなものに興味はない。そんなの間違っている。

自分の曲には誇りを持っている。その中身、視点、狙いすべてに。要するに俺は世界をもうちょっとマシなところにしたいんだ。叶いそうもない夢だとか馬鹿げたことだとは思わない。ただし御託を並べてるだけじゃダメで、実行してみせる必要がある。

俺に関する伝説なんてのは、戦時中のチャーチルかネルソンみたいなもんだろ。俺がそんなものに分類されるかどうかなんて知るか。俺の人生はまだ終わらない。自分で満足していない。たかだか50年生きてきたくらいで自分を伝説や聖人視できるわけないだろ。あんたが今まで見てきたものなんてまだ前哨戦に過ぎない。

俺はできる限り長生きしたい。ふわふわの雲や天使の歌声に耳をすませみたいな宗教はどれもくだらない。天国は地上にあるべきなんだ。だから俺はガンジーから受動的抵抗の哲学を学んだ。

俺の歌は銃よりもっと強力だ。ふざけて言ってるんじゃない。言葉は俺の弾丸だ。そしてこの世界に対して充分に機能した。認めたくない奴も多いが、あいにくそれは事実だ。

断じて言う、パンク・ムーブメントなんてものは存在しなかった。ただし何とかムーブメントの一員になりたい連中が大勢いたことは事実だ。俺は俺のやりたいことをやっていただけだ。俺のやったことを他人がどう解釈しようと知ったことか。みんな同じ恰好をしたパンク・バンドで集まって一緒に戦おうだって?そんなもんまるで興味ないね。ユニフォームが着たけりゃ軍隊に入ればいい。だいたい俺はみんな同じユニフォームを着てというのが大っ嫌いなんだ。個性こそが一番重要なんだ。ひとりひとりの違いが人を生き物としてマシな存在にしてくれるのさ。俺の友人と俺は意見が激しく食い違うことが多い。だがお互いそんな相手が気に入ってる。がまんを続けてくことだって不可欠なんだ。俺がいつも言ってるだろ。同じ場所にたどり着く道はいくつもあるんだ。

野生生物と自分が同じ道を辿る生き物なんだってことを理解するまで、ずいぶん長いことかかった。だがそれが理解できるようになってすごくうれしいよ。生き物が生きている様子を見るのはすごく楽しい。昆虫を一日中眺めていたって飽きない。けど俺は菜食主義者なんかじゃないぜ。上下二組の歯を持って生まれたんだから、それを最大限活用して食べてる。

ま、実のところ本物の歯はほとんど残っていないんだ。俺の両親は色んなものを俺にくれたが、歯ブラシだけはくれなかった。そのこと自体はあきらめるしかないが、影響はまだ続いている。二つの膿瘍の治療を終えたばかりなんだ。口の中を8針縫って上唇が歯茎に縫い付けられている。だから話すと変なんだ。笑うと縫ったところが引っ張られるように感じる。

Lydon the Pistol goes off on one again - The Star

PiL のデビューから30数年経ちました。ジョニーおじさんは去年に引き続き今年もツアーに出て、ブランデーでうがいをしながら伸び伸びと歌い、聴衆もそれに応えて楽しむようになりました。でも昔は違ったんだよ。信じられないかもしれないけど「PiL の曲では踊れない」って人が昔はたくさんいたんだから。一方、お金とパブリック・イメージに関してはあまり状況は変わっていないようです。

昔はパブリック・イメージなんてごく一部の有名人だけのものでしたが、今はブログやら Twitter などのおかげで普通の人がちょっとしたパブリック・イメージと戦わなくちゃならない状況が生まれています。本当はあるのかないのか分からない小さなパブリック・イメージを崇めたり、守ったり、壊したり...。

「パブリック・イメージ」の詩で歌われている You というのはマルコムのことだと言われていますが、もちろん You はあなた自身のことであり、歌っているジョニーおじさん自身のことでもあるわけです。だからこそ2011年の今もこの歌を歌いつづける価値があるのです。

あんたは
俺の言葉を聞こうとせず
ただ俺の服を見てただけ
少しマシだったとしても
見てたのはせいぜい俺の髪の色

パブリック・イメージ

あんたの欲しがったものは
いつまで経ってもぼんやりしたまま
イメージの後ろに隠してるのは無知と不安
大衆という体制を隠れ蓑に
相変わらず昔のたくらみが通用すると思ってる

パブリック・イメージ

すべて物事には表と裏がある
誰かさんは俺をやめさせなきゃならなかった
だが俺はもう駆け出しの頃とは違う
他人の所有物になんかならない

パブリック・イメージ

すべて物事には表と裏がある
誰かさんは俺をやめさせなきゃならなかった
だが俺はもう駆け出しの頃とは違う
それにこれはモノポリーなんかじゃない

パブリック・イメージ

あんたはお望みのもの
俺のパブリック・イメージを手に入れた

俺の入り口
俺の作品
俺の最後の見せ場
そして俺からのサヨナラ

パブリック・イメージ
あばよ

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